松本幸四郎と市川染五郎の「京乱噂鉤爪(きょうをみだすうわさのかぎづめ)」を観た。
幸四郎、染五郎父子はなかなか野心的で、冒険に敢えてチャレンジをする。
この芝居は、江戸川乱歩原作「人間豹」をもとに、なんと主役は明智小五郎だと言う。
しかも時代は幕末、尊皇攘夷と開国佐幕が対立し血みどろの戦いを演じていた時代である。
そこに明智小五郎が登場して何をするのか。
歌舞伎の伝統芸をどこまで生かし、どこまでブチ破るのか。
面白いと思って観劇したのである。
主役は染五郎演じる人間豹だった。
人間豹は子供の頃、人間と豹が合体した生き物として見世物にされた。
その事の恨みでともかく人間達を、世の中を混乱させ崩壊させたいと願っているのである。
冒頭、当時流行っていた「ええじゃないか」の踊りのシーンから始まる。
庶民が苦しい生活から逃れる為に、「ええじゃないか」と踊りながら、伊勢神宮に参る。
或いは、伊勢まで行かなくても踊り狂う。そこへ、人間豹が現われて庶民達を次々に殺戮する。冒頭から衝撃的な場面である。
京都で有名な人形師がいる。名人で魂の入ったような人形を作る。
ところがその息子の代になってから、息子が金儲けに目がくらみ、父親の作った人形を次々に売る。ついには父親の生命をかけた形見の人形までを売ってしまう。
その息子の妹になるのが大子。大子は染五郎の二役である。
その大子が父親の魂が入った人形を売るのを大反対するが、ついに人形を売ってしまう。その形見人形を買う人物こそ鏑木幻斎である。陰陽師として朝廷に深く入り込み、実は天下を狙うくせ者である。この陰陽師と対決するのが松本幸四郎扮する明智小五郎だ。
問題の人間豹は、陰陽師の妖術にかけられて陰陽師の手先となっている。
一幕の終わりは人間豹がアクロバットのように宙吊りになり何回転もしながら、2階へ消えていく。この芝居の一つの目玉になっている。染五郎の演技はダイナミックである。
二幕では、明智小五郎までが陰陽師の妖術にかかって力を失ってしまう。
人間豹は染五郎演じる大子まで殺してしまう。
だが、最後に人間豹は懸命に陰陽師の妖術と戦いついには陰陽師を殺す。
随所に歌舞伎では見られない新しい試みが導入されている。
エンタティメントとしての配慮も充分凝らされていて、充実感を味わった。
なお、この芝居の演出は松本幸四郎、原案は市川染五郎である。
幸四郎・染五郎親子の思い切ったチャレンジは評価に値する。