先日、秋葉原へ行った。
テレビ東京プロデューサーの五箇公貴さんが発掘してくれた、
僕のテレビ局時代のドキュメンタリーがDVDになって、
その発売記念のトークイベントがあったからだ。
トークゲストは水道橋博士さんだ。
そして、土屋敏男さんも来てくれた。
土屋さんは日本テレビのエグゼクティブディレクターである。
「進め!電波少年」などのヒット番組を手がけたのが土屋さんだ。
僕のドキュメンタリーがDVD化されたきっかけは、
テレビ東京の「やりすぎコージー」という番組である。
番組中で水道橋博士さんが僕のドキュメンタリーを紹介してくれた
ことだった。
40年前、僕はテレビ東京の社員だった。
当時は東京12チャンネルといった。
僕はディレクターとして、たくさんのドキュメンタリーを撮った。
その作品を、五箇さんはテレビ東京の倉庫から発掘してくれたのだ。
僕自身、この世にはもうないと思っていた作品もたくさんみつかった。
なかには、いまではとても撮影が許されないであろうという内容の
作品もあった。
たとえば、当時大人気のジャズピニスト山下洋輔さんが
「ピアノを弾きながら死ねればいい」と言った。
それを聞いた僕は、
「それならピアノを弾きながら死ねる状況を作ろうじゃないか」
と考えた。
当時は全共闘全盛の時代だった。
早稲田大学もやはり中核派や革マル派、民青などに占拠されていた。
そのなかに反戦連合という組織があった。
中核派から分裂した組織で、民青のいちばんの敵だった。
バリケード封鎖されていた大隈講堂から反戦連合のメンバーに
ピアノを盗み出させて、民青が占拠している地下ホールに運び込み、
山下さんに弾かせたのだ。それをすべて撮影した。
演奏中に中核派や民青が殴りこんでくる、そうすれば山下さんは
ピアノを弾きながら死ねると考えたのだ。
山下さんもすごいが、その話を実行して、撮った僕も頭がおかしい
としか言えない。
もし、山下さんがそこで死んだら僕も殺人の共犯で捕まっていただろう。
また、高橋英二さんという「七人の刑事」にも出演していた、
有名な若手俳優がいた。
ガンで余命半年と言われた高橋さんから、「俺の死ぬまでを撮ってくれないか」
と頼まれたのだ。
その作品のなかに、高橋さんが国会議事堂に向けて散弾銃を撃つという
シーンがある。高橋さんの望みをなんでも叶えてやるという話になったのだ。
これは完全に犯罪だ。
イベントで土屋さんも話していたとおり、面白いテレビ番組を作るには、
狂っていないとダメなのだろう。
そして、たしかに当時、僕は狂っていたと思うのだ。
ドキュメンタリーを撮ることは、基本的に危ないことである。
危険を覚悟しないといけない。僕はそう考えている。
たとえば、全共闘運動で学生と機動隊がぶつかるとき、
ほとんどのテレビ局は機動隊の後ろから撮影した。
そのほうが安全だからだ。
しかし、僕らは学生と機動隊の真ん中で撮った。
そうしないと両方のことが分からないと僕は思ったからだ。
だから、学生たちが投げ損なった火炎瓶が撮影中の僕らのところへ
飛んできたこともあった。
それを足で蹴飛ばしながらカメラマンは撮り続けたのだ。
三里塚闘争では、最初、農民のほうが強かったから、取材班は
農民の側から撮っていた。
農民の側から撮っていると、空港公団や警察が悪者に見える。
ところが、機動隊が本気になり催涙弾などを使うようになると、
みな一斉に機動隊側から撮り始めた。
自分たちの方に催涙弾が飛んできて危なくなってきたからだ。
すると、それを境に、世間の見方が180度変わった。
テレビに映るのは鋤や鍬といった武器を持った農民や彼らの横にいる
過激派になった。
そのため、今度は農民のほうが悪いという雰囲気になったのだ。
当初、成田空港の建設は無理だと言われていた。
ところが、テレビが機動隊の後ろから撮るようになったとたん、
やっぱり農民の反対は問題だと世論が変わったのだ。
テレビが怖いのは、どこから撮るかによってどうにでも見えてしまう
ことだ。ここが映像の非常に危ないところなのである。
だから僕は、テレビや新聞に客観性はないと思っている。
機動隊の後ろから撮るか、農民の後ろから撮るか、どちらか一方からしか
撮れないのだから、客観性や公平性が持てるわけがない。
それなのにテレビや新聞は「客観性を持て」とか「公平であれ」と言う。
そんなのはすべて嘘なのだ。
「朝まで生テレビ!」の視聴者に、司会者である僕が、
片方の意見に偏っているんじゃないかと言われることがある。
僕の姿勢はハッキリしている。
曖昧(あいまい)さをなくすことだ。
今年の正月の放送で福島原発の問題を取り上げた。
そこで僕が心がけたことは、推進派の嘘はどこにあるか、反対派が
感情的になっているところはどこかを追及することだった。
僕は両者の曖昧さをとことん明らかにしたかったのだ。
今月の「朝まで生テレビ!」では沖縄の米軍基地問題を取り上げる。
沖縄の人たちにたくさん来てもらって、本音を語ってもらう。
もちろん沖縄で討論する。東京で話をしても意味がない。
沖縄の地で徹底的に話し合うのだ。
そんなことができるのは残念ながら「朝まで生テレビ!」だけである。
狂っていると思われても、いつも問題の真ん中に立ち続けたい。
双方から物が飛んでくるところで、徹底的に話し合う、そういう姿勢を
続けていきたい、と僕は思うのだ。