かつてシャープは、「液晶のシャープ」として一世を風靡した。
ところがいま、過剰な設備投資に加え、主力商品の液晶テレビや太陽電池で
赤字に歯止めがかからず、深刻な経営不振に喘いでいる。
数年前まで液晶テレビ「AQUOS」が飛ぶように売れていた状況からは、
にわかに信じがたい凋落ぶりだ。
この状況を受けて進められた台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との資本業務提携も、
シャープ株の急落を受け、出資を棚上げされている。
このため、2013年3月期には、最終赤字が2500億円へと大幅に拡大するとの
予想を発表。
創立100周年を迎えながら、シャープは創業以来最大の危機に直面しているのだ。
しかし、経営不振はシャープに限ったことではない。
日本の電機産業が軒並み深刻な業績悪化に陥っている。
パナソニックは3万6000人、ソニーやNECは1万人規模の大幅な人員削減を
打ち出している。日本の電機産業全体が危機的状況に陥っているのだ。
そもそも歴史を振り返ると、まず戦後すぐに繊維産業が日本の産業を牽引してきた。
僕が高校を卒業するころは、東洋紡や鐘紡といった繊維メーカーが、就職する学生の
人気企業だった。繊維産業は、発展途上の日本を支えていたのだ。
80年代には、繊維メーカーに替わり、家電メーカーの時代になる。
経済発展の段階に応じて、主力となる産業が変わっていくのである。
どの国も、同じような発展のプロセスをたどるのだ。
家電産業でいえば、コモディティ化が進んだことで、いままで基幹商品だったものが、
うまみの薄い商品になり、逆に経営の足を引っ張っていくことになった。
いま日本は、家電の段階を過ぎた。
新しい産業に取り組まなければならない時期を迎えているのだ。
具体的に言うと、家電産業に替わるのはIT産業だろう。
ところが日本は、IT産業に取り組めていない。
その証拠に、iPhoneのアップルにしてもWindowsのマイクロソフトにしても、
みなアメリカの企業である。
日本も家電産業からIT産業へと替わっていかなくてはならない。
ところが、そうなっていないところが家電産業の危機的状況のいちばんの
原因なのだろう。
ユニクロの柳井正さんに、なぜユニクロはうまくいっているのか、と僕は
聞いたことがある。
下着メーカーや繊維メーカーは苦しんでいるのに、なぜユニクロはうまくいって
いるのか、不思議に思ったからだ。
柳井さんの答えははっきりしていた。「当たり前だ」と。
繊維産業は、経済発展のある段階で成長する産業なのだ。
日本は繊維産業が発展する段階をすでに過ぎている。
だから、ユニクロはすべて中国で生産し、日本で売ってきた。
ところが、中国経済がだんだん成長してきた。当然、人件費も高くなる。
そこで、今度は生産拠点をバングラデシュに移した。
そして、今度は中国でユニクロの製品を売るようにしているのだ。
産業のプロセスはこのように発展し、成長する産業も変化していく。
ところが日本は、いつまでも家電産業を中心にしてきた。
本当は、IT産業をどう育成して、産業の基幹にするか、もっと真剣に
考えなければならない。
そしてIT産業以外でも、次の産業になるものはないかを考えていくことが必要だ。
たとえば、原発に替わる新しいエネルギーがこれからは必要とされる。
この新しいエネルギー産業をこれからどう作り育てていくかをもっと真剣に
考えていけばいい。
いろいろ知恵を絞っていけば、日本経済がこれからも元気であり続ける可能性は
まだまだ十分にあると僕は信じている。