先日、エネルギー基本計画の政府案が発表された。この政府案は、本当なら昨年内に発表されるはずだったが、先延ばしにされていた。昨年12月、猪瀬直樹さんが「徳洲会」グループからの資金提供問題を受けて東京都知事を辞職、急遽、都知事選が行なわれることになったためだ。つまり、原発反対派を刺激することを避けて、発表を遅らせ、ようやく先日の発表となったのである。
この政府案では、原子力発電は、「重要なベースロード電源」と位置づけられている。実は、当初の素案では、「基盤となる重要なベース電源」という表現だった。ところが、先日の政府案では、「基盤となる」が削られ、「ベースロード電源」なる言葉が使われている。
なぜ表現が変わったのか。実は、公明党の要請に応えたためだ。「ベースロード電源」とは、「時間帯に関係なく低コストで安定的に出力できる電源」を意味する専門用語だという。だが、この言葉を知っている国民がどれくらいいるだろうか。表現を和らげたつもりかもしれないが、ただのゴマかしだろう。だいたい、政治家や官僚はゴマかしたいときに、難しい言葉を使いたがるのだ。
原子力発電について、かつて僕は詳しく取材を行ない、『原子力戦争』という本にまとめている。いまも専門家、政治家、官僚、あらゆる関係者に、取材を続けている。日本のエネルギーをこれからどうすべきか、真剣に考えねばならないと思っているからである。
与党の政治家のなかには、「人類にとって必要。原発は使い続ける」とはっきり宣言する人もいる。その一方で、「使いこなせない原発は、ヤメるべき」と指摘する人もいる。
双方の主張は、十分に理解できる。一方で、現在、原発を停めていることで、年間3兆円もの燃料代が余計にかかっている。これが、日本経済に重くのしかかっていることは間違いない。
原発は、僕たちに突きつけられた、たいへん難しい問題だと思う。だからこそ政府は、「再稼働するならば、組織の徹底的な改革」について、きちんと国民に説明すべきだ。そして、もっと議論を重ねて、何を選択するのか、僕たち国民が決めていかねばならないのだ。
原発が廃棄物や管理などに長期的な問題があるのは事実だが、一方で、火力発電を主力にしていれば、地球温暖化にも長期的な問題を引き起こす。
「温暖化で海面上昇、数億人移住必要に IPCC報告書案」(朝日)
http://digital.asahi.com/articles/ASG164VCNG16ULBJ008.html?iref=comkiji_txt_end_s_kjid_ASG164VCNG16ULBJ008
また、火力発電であろうが、水力発電であろうが、きちんと管理しなければ多くの人命にかかわることでは同じである。石炭採掘事故や石油・ガスタンク事故、ダムの決壊といったこともある。元の集落が流されて住めなくなるということさえある。
東北電力は女川原発の設置に際して、津波に対してきちんと研究しようという姿勢があり、過去にどれくらいの規模の津波が来ていたかを知るために科学的な論文を探し、津波堆積物に関する論文を参考に現場採掘して実際に津波堆積物を見つけ、それに基づいて対策をしたために事故が防げたというのは福島原発と対照的である。
(http://tsujiandon41.blog.fc2.com/blog-entry-80.html)
しかも福島原発の事故直前の調査で仙台平野の奥深くに津波堆積物が見つかり、福島原発が危ないと東京電力が指摘されても無視に近い形になっているのは、同じくNHKの「大震災発掘 埋もれた警告」で指摘されたところである。(「大震災発掘 埋もれた警告」は、ネットでも見られる)
これでは、東京電力がたとえ火力発電や水力発電をしていても、大規模な事故は起こらないと言えるだろうか。
そういう基本をすっ飛ばして、ただ脱原発と言っても、冷静な判断には結びつかないし、別のエネルギーでも管理・運用に失敗するだろう。
(例)
「太陽光発電 生産、廃棄時に環境を汚染 青海省、有害物質など対策急務 」
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/130920/mcb1309200500000-n1.htm
「太陽光パネルにごみ問題 不正処理で汚染懸念」
http://www.met.gr.jp/news/2013/06_06.html
「原発再稼働を目指す政府は、ゴマかさずにその理由を説明せよ!」
→理由が未だに分かっていないのは田原氏を初めとするジャーナリストと朝日新聞だけだ。
政治家やまして官僚に意見を聞いても結論が出るわけがない。基本的に知識不足だったり利権絡みだったり、あるいはイデオロギーで話すからだ(例:新潟県泉田知事)。
科学者と経済学者の間ではとっくに結論が出ている。今すぐの原発ゼロは非現実的。稼働に問題無い発電所から再開し、当面の電力を確保する。その間、将来20~30年後に向けて新しいエネルギーの開発を進める。
田原氏や朝日新聞が「もっと議論を重ねて」とよく言う。これは彼らにとって都合の良い結論が出ていないという、ただそれだけである。