先日、市村正親さん主演の舞台を観た。「ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち」だ。1983年にブロードウェイで開幕し、トニー賞6部門を受賞した大ヒットミュージカルである。日本語版の初演は85年、93年からは市村さんが主役を務め、上演を重ねている。
市村さんが演じるのはアルバンという、オカマバーの看板スターだ。そして、鹿賀丈史さんが演じる、ナイトクラブの経営者ジョルジュと、ゲイのカップルでもある。
ジョルジュ(鹿賀さん)は、過去に1度だけ女性とつき合ったことがある。そのときに子どもを生ませていた。そしてアルバン(市村さん)は、その子を実の息子として育てており、その息子の結婚のために女装することになって……。こんなストーリーだ。
女性の装いで歌い、舞う市村さんは、すばらしかった。ダイナミックかつ美しく、人生の切なさもにじみ出ている。久しぶりの市村さんの舞台に、僕は心から感動した。
市村さんの芝居の歴史は長い。「ジーザス・クライスト=スーパースター」「屋根の上のヴァイオリン弾き」「ミス・サイゴン」など、たくさんの大舞台で活躍している。僕はどれも観てきた。市村さんの古くからのファンなのだ。舞台の上での市村さんの圧倒的な存在感、独特の歌声……。とても魅力的な役者である。
彼は昨年7月に病気になった。胃がんである。そのため、出演中だった「ミス・サイゴン」を降板した。だから、今回の舞台を観るまで、僕はたいへん心配していた。市村さんは僕よりだいぶ若いとはいえもう66歳になられる。復帰されはしたが、もしかしたら声量が落ちているのではないか、動きが鈍くなっているのではないか、と。
しかし、杞憂だった。張りのある歌声もダンスもまったく衰えていない。圧倒的な存在感は健在だった。きっと、たいへんなリハビリと厳しい稽古をこなされたのだろう。華やかな舞台の陰で、地道な稽古を積み重ねてきたのは想像に難くない。まさに役者魂だ。
舞台を観ながら、市村さんのプロ意識と、演技にかける情熱に、僕はとても刺激を受けた。僕のジャーナリスト魂にもめらめら火がついたのだ。市村さんのように、僕自身もたゆまず精進して、誰も触れようとしない事実を追及し、誰も書かない情報をみなさんに伝えていきたい。そんなことも思い起こされてくれるほど、市村さんの舞台はすばらしかった。