新入社員誕生の季節がやってきた。この季節になると、大学を卒業し、岩波映画に入社した頃のことを思い出す。
僕は本当に不器用で、けっして優秀な社員ではなかった。だが、おもしろいと感じた仕事に、とことん向き合う気持ちはいつも持っていた。そのような気持ちを持ち続け、東京12チャンネル、現在のテレビ東京に転職した。さらにそこも辞め、フリーになって現在に至るわけだ。
先日、堀江貴文さんと話していたら、こんなことを言っていた。「僕の頃と比べて、起業へのハードルは、ものすごく低くなっていますよ」と。かつて日本は、ものすごく起業しにくい社会だった。ベンチャーキャピタルが発達していなかったからだ。いいアイデアがあっても、資金を出してくれる人がいないのだ。
それでも、運よく起業ができたとしよう。だが日本の銀行は、社長個人の資産を担保にお金を貸す。だから、万が一倒産すると、莫大な借金を背負うことになる。人生のやり直しがきかないのだ。これでは、ハードルがとても高いといわれても、仕方がないだろう。
では、いまはどうか。こうした条件が、それほど改善されたとは思えない。だが、ハードルがかなり下がっているのも間違いないのだ。なぜかといえば、インターネットが普及したことで、低コストで、さほど自己資金がなくても起業できるようになったからだ。
また、こうした事業は、結果が出るのが早い。だから、さほど大きな痛手を受けないうちに、撤退あるいは軌道修正もしやすい。例えば「弁護士ドットコム」を立ち上げた、元榮(もとえ)太一郎さんだ。
元榮さんが大学在学時のことだ。交通事故を起こしてしまった元榮さんは、弁護士を探す手段が、一般に開かれていないことを痛感した。そこで、「弁護士や税理士といった専門家と、専門家のサービスを求めている方々の、橋渡しするサービス」を、2005年に始めたのだ。
「弁護士ドットコム」は、2015年2月4日には月間サイト訪問者数が700万人を突破している。訪問者数は3年で9倍超、1年で1.8倍超に拡大しているという。
転職サイト「ビズリーチ」代表の南壮一郎さんは、「年収1000万円以上の求人情報は、なぜ、人を介してしか見つからないのだろう?」という疑問から、管理職やグローバル人材に特化した会員制転職サイト、「ビズリーチ」を開設した。そして新しい働き方、企業の採用のあり方を提案している。
2人とも自分が困ったことや、抱いた疑問や矛盾をそのままにせず、ビジネスに結びつけている。この2人以外にも、こうした若き経営者はたくさん誕生している。とても心強い限りだ。
堀江さんは、会費制のサロンを開いている。月1万円だが、現在600人の会員がいるそうだ。彼らの多くは現在会社員だが、いずれ起業したいと考えている。これもまた頼もしい。
僕のような年寄りは、現状に危機感を感じ、つい心配ばかりしてしまう。けれど、実は堀江さんが言うように、いまは、大きな可能性のある、しかもチャレンジしやすい時代なのだ。
学校を出て、就職した会社で一生勤務するのももちろんいい。けれど、漠然とでもいいので、「いつか自分で事業を起こすんだ」という「起業心」を持って社会に出てほしい、と僕は思う。やりたいことが見つかって、本当に起業できれば、それはとてもすばらしいことではないか。
もし、起業しなかったとしても、つねに疑問や矛盾、おもしろいこと、そういった「事業のタネ」を探すことは、会社で働くときもきっと役に立つと僕は思うのだ。
新入社員はもちろん、すでに社会に出ている人たちにも言いたい。仕事は自分でおもしろくするものである。豊かな好奇心を持ち、目をいつも見開き、社会に羽ばたいてほしい。