AIIB、このアルファベット4文字が、いま、メディアを賑わせている。アジアインフラ投資銀行の略称だ。設立を提唱しているのは中国。発足したら中国人が総裁を務め、拠点も北京に置かれることになる。つまり、新たに中国主導の、アジア向け国際開発金融機関ができるわけだ。
参加を表明している国は、現在57カ国になっている。インドやベトナム、韓国、タイ、マレーシアなどアジア各国、さらにイギリス、ドイツ、フランス、イタリアという欧州の主要国が、2015年になって参加を決めている。
4月17日、麻生太郎財務相とアメリカのルー財務長官が話し合い、日米は参加見送りを決めた。そもそも国際開発金融機関には、1945年に創設された世界銀行と、1966年に創設されたアジア開発銀行(ADB)がすでに存在する。
世界銀行はアメリカ主導である。一方、ADBは最大の出資国が日本とアメリカ、総裁は日本人が代々務めている。つまりADBは、日米主導の機関だ。そこに中国主導の新機関が現れ、世界57カ国が参加するというのだから、日米にとってはショッキングだった。
先日、僕の番組『激論! クロスファイア』でAIIBについて激論した。ゲストは、キヤノングローバル戦略研究所の研究主幹である瀬口清之さんと、東京財団上席研究員の渡部恒雄さんである。
当初、AIIBに対して、中国が恣意的に運用するのではないか、という懸念をもたれていたそうだ。だが、中国が国際的なルールに則る、と確約したことで、欧州各国が参加を決めたのだ。
もうひとつ懸案だったことは、中国に融資のノウハウがないため、無秩序な貸出になる、そうすると、債権者や途上国の発展に損害を与えるのではないか、ということだ。これは、中国も認識しているようだ。だから、ADBで実績がある日本に協力を求めているようだ。
最初のAIIBの目論みは、中国が経済的影響力を拡大しようということだったと、僕はみている。ところが、予想以上に多くの国が参加し、欧州主要国まで参加することになった。そのため、フェアな運用をせざるを得なくなったということではないのか。
では、現在の状況を踏まえて、日本はどう動けばよいのか。まず、アメリカは政府内にさまざまな動きがあるようだ。だが、瀬口さん、渡部さん二人に共通する意見は、「政府が参加を決めても、議会が許さないだろう」ということだった。簡単にいえば、オバマ大統領の手柄になることを、共和党が多数を占める議会が許さないのだ。第一次世界大戦後に発足した国際連盟の場合もそうだった。アメリカのウィルソン大統領が提唱し、国際連盟が発足したのに、言いだしっぺのアメリカが、議会の反対により参加しなかった。
では、日本はどうするのか。二人の意見は、「あせることはない」である。「参加することはない」、と言っているのではない。そもそも参加しなくても、ADBを通して協力もできるのだ。中国がフェアな運営を約束しているのならば、完全拒否ではなく、国際投資のノウハウを持つ国として意見をいい、議論する機会を持てばいい。
日中間に領土問題などの懸案が山積している。だが、それらの問題をいったん置いて、アジアの経済発展のために話し合う。それが、日本と中国というアジアの大国の義務だと僕は思うのだ。