田原総一朗です。
先日、萩本欽一さん、
「欽ちゃん」と対談をした。
僕が萩本さんにお会いしたいと思ったきっかけは、
小泉進次郎さんの言葉だった。
医療技術が進み、近い将来、
人間の平均寿命が100歳、
いや120歳になるかもしれない。
80歳からさらに40年も生きるとしたら――。
これまでの人生設計はあてはまらない。
そんな時代に、
人々は何を生きがいにしたらいいのか。
僕が「人生120年時代」をテーマに、
取材を進めていた時、
小泉さんがこう言った。
「萩本欽一さんは、
いま大学生なんですよ。
大変面白い生き方をされています」。
僕はどうしても、
萩本さんに会いたくなり、
僕の番組に出ていただいた。
お目にかかるのは、
今回2度目だ。
萩本さんは、
73歳で駒澤大学仏教学部に入学。
その動機がいい。
「歳を取って物忘れがひどくなるのをみんなは嫌う。
けれど僕は、
忘れた分だけ新しい知識を入れればいいと思った」
というのだ。
仏教学部を選んだ一つの理由は、
仏教の「言葉」が、
魅力的だったことだという。
「仏教を勉強して、
素敵な言葉をたくさん知ったら、
お笑いや番組に生かせるかもしれない」
と考えたのだ。
萩本さんの大学生活の話は楽しく、
僕までわくわくしてしまった。
1年生のとき、
女子学生が「欽ちゃん、友達になろう」と、
声をかけてきた。
そのとき萩本さんはどう答えていいかわからず、
ちゃんと返事ができなかった。
4年経って、その女子学生に、
「あのとき、なんて言ったらよかったの?」と訊ねてみた。
すると彼女は、
「欽ちゃん、簡単じゃない。
『もう友達だよ』って言えばよかったのに」
と答えたそうである。
なんと素敵な言葉か、
萩本さんは感動した。
また萩本さんは、若い学生たちに、
時々ビールをおごった。
「ビールを1杯ごちそうすれば、
いろんな話ができる。
そういうことをしないと、
面白くないよね」と笑う。
世代を超えた、
そんな出会いが素晴らしいと思う。
定年で退職した人たちが、
その後の生活で何に苦しむか。
一番は「孤独」だという。
そういう人たちにとって、
大学は、勉強するだけでなく、
社会とのつながりを保つ場となりうると思う。
正式な学生にならなくとも、
聴講生であったり、
社会人向け講座を受講するなど、
いろんなかたちがあっていい。
少子化で学生減少が予想される今後、
大学は世代を超えて学ぶことができる、
もっとオープンな場になってほしい。
いまもそうした動きはあるが、
今後もっと活性化すべきだろう。
萩本さんは、
2019年5月に駒澤大学を自主退学した。
「人生の最後はお笑いで終わりたい。
80歳になったら身体が動かないだろうから、
お笑いに全力投球するなら今だ」。
そう考えたのだという。
「最後に『新しいお笑い』を作ってみたくなった」。
大学に通ったおかげで、
今までのお笑いの延長ではなく、
「新しいお笑いを」、
と考えられるようになったのだ。
僕は萩本さんから、
おおいに刺激を受けた。
何歳になっても学ぶことはできる。
そして「新しい」ものを目指すこともできる。
対談中、僕はずっと「萩本さん」と呼んでいたのだが、
最後に萩本さんが笑ってこう言った。
「次は絶対に『欽ちゃん』て呼んでね」。
またぜひ「新しい笑い」の話を伺いたい。
そして、そのときは、
「欽ちゃん」と呼ばせてもらおう。