田原総一朗です。
新型コロナウイルス問題が、
世界中を危機に陥れている。
安倍首相は、ついに4月7日、
7都府県に
「緊急事態宣言」を出した。
僕は、10日に首相官邸を訪れ、
安倍首相に会った。
「緊急事態宣言が非常に遅れた。
なぜこんなに遅れたのか。
財務省が強い反対をしていたというが、
それほど反対したのか」と、
僕は率直に聞いた。
安倍首相は、
「そうではない」と言った。
実は「ほとんどの閣僚が、
緊急事態宣言に反対していた」という。
その理由は、
日本の財政問題にあった。
半年ばかり前までは、
日本の主なメディアはすべて、
「日本の財政は先進国で最悪にある。
長期債務は1100兆円以上、GDP比200%、
このままでは、日本の財政は、
数年で破綻する」
と強調していた。
こうした財政の厳しさは
当然閣僚も認識しており、
「コロナウイルス問題で、
数十兆円もの財政出動をするなんてとんでもない」
と考えていたのだ。
しかし、これは
「平時の発想」である。
コロナウイルスが、
世界に拡大し、
日本でもこれだけ多くの感染者が出ている今、
もはや「戦時」なのだ。
安倍首相はこうも言った。
「実は私自身、
第三次世界大戦は、
おそらく核戦争になるであろうと考えていた。
だが、このコロナウイルス拡大こそ、
第三次世界大戦であると認識している」。
政治を「戦時の発想」に切り替えねばならない。
その認識が固まったので、
緊急事態宣言となったのだ。
緊急事態宣言とともに、
政府は緊急経済対策を発表した。
事業規模は過去最大の108兆円。
その内容は、
一定の要件を満たす、
減収世帯に30万円を給付。
また、売上が半減した、
個人事業主やフリーランスに100万円、
中小企業に200万円を、
それぞれ最大給付するというものだ。
だが、いずれも市区町村に自己申告しなければならない。
市区町村の窓口は申込者が殺到し、
非常に手間暇かかり、
支給が、6~7月に遅れるのではと心配される。
僕は、
「なぜ国が直接給付すると決めなかったのか」と、
安倍首相に問うた。
「実は戦後日本では、
地方自治体が主体性を持ち、
国から直接給付となれば、
独裁になってしまう。
だからできないのです。
しかし、できるかぎり早く、
少なくとも5月中には給付したい」
ときっぱりと言った。
給付は一回きりなのか、
もしもコロナショックが長引いたらどうするのか、という心配もあ
確かめると、安倍首相は、
「一回きりではありません。
それは回数を重ねることは充分考えられる」と答えた。
さらに、欧米では緊急事態宣言のもと、
政府の出した要請に反すれば罰則がある。
罰金、あるいは逮捕もありうる。
ところが日本では、
罰則規定がない。
「これでは少なからぬ国民が、
守らないのではないか」と聞いた。
安倍首相は、
「こういう時に
罰則規定をもうけないのが、
戦後日本の体制である。
それをやると圧政ということになる」と言う。
戦前の日本は、
国に強い権限を持たせたことが、
戦争という大きな過ちを生んだ。
だからこそ、戦後日本は、
民主主義、地方分権とし、
国の権力を抑える国として復活を果たした。
それはもちろんよいことなのだが、
こうした「戦時」の場合は、
舵取りが難しいであろう。
僕は安倍首相に、
「ともかくこれは、
戦後最大の大問題。
だから政治生命をかけて、
全力投入でがんばってほしい」と伝えた。
4月15日は、僕の86回目の誕生日である。
このような「戦時下」で迎えるとは、
思いもしなかった。
この戦争は敵の見えない、
困難な闘いである。
ただ、僕が子どもの頃体験した、
あの戦争との大きな違いがある。
国と国、人間と人間が闘っているわけではない。
世界の多くの国々が、
ウイルスという敵と共闘しているのだ。
技術や情報、データを共有し、
世界が協力し、
ウイルスに打ち勝てば、
必ずまた日常を取り戻せる。
みなさん、
その日までがんばりましょう。
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