田原総一朗です。
今、多くの国民が、
もやもやとしたものを抱えているのではないだろうか。
国は新型コロナウィルス対策を打ち出せない。
緊急事態宣言下のように
社会活動、経済活動をストップさせれば、
感染も減ることはわかっている。
しかし、いつまでも止めていれば、
経済のダメージが大きすぎる。
だから動かすしかないことはわかるのだが、
では感染増に対して、
どう備えて、
どう経済を回していくのか――。
大変難しい問題なのはわかるが、
その方針がまったく見えないのだ。
自民党の武見敬三さんは、
「現在の法制下では、
PCR検査は増やせない」と語った。
ではなぜ法律を変えて増やさないのか、
武見さん以外の政治家は説明しないし、
もちろんトップの安倍首相も語らない。
こういうときこそ、
リーダーが国民に向けて
自らの言葉で
語りかけるべきではないのか。
私は長年、
政財界のリーダーをインタビューしてきた。
なかでも、心に残る100人の経営者についてまとめ、
『伝説の経営者100人の世界一短い成功哲学』(白秋社)として
このたび上梓した。
そこには、
今こそ我々の心に刺さり、
力になる言葉が数多ある。
松下電器(現パナソニック)創業者、松下幸之助は、
「人材を抜擢するとき、どこを見るのか」
という私の問いにこう答えた。
「大切なのは、運です。
『運』というのは難しいことにぶつかったとき、
悲観してあきらめるか、
おもしろがって前向きにとりくめるか、です。
難しい問題にぶつかったとき、
おもしろがって前向きに取り組める人間。
そういう人間を私は抜擢します」。
ソニーの盛田昭夫さんは、
こう語っていた。
「悲観的になっている暇はない。
人間のテクノロジーをもってすれば、
解決できない問題はない」
伊藤忠社長を務めた丹羽宇一郎さんの言葉も忘れられない。
私は社長就任直後の丹羽さんにこう尋ねた。
「丹羽さん、
経営者はいかにあるべきでしょうか」。
すると丹羽さんは、
「Clean(清く)、Honest(正しく)、Beautiful(美しく)」
と言い切った。
かっこよすぎる、と思ったが、
丹羽さんはほんとうにその言葉を貫き通した。
隠されていた損失、
不良債権など、
情報をオープンにした。
そのうえで社員に
「今まではバブルを謳歌した宴会経済だった。
そこから転換するために、
今度は苦しみを甘受しなければならない」
と語りかけ、
社員たちと問題を共有した。
そして見事に、
赤字だった伊藤忠を黒字転換させたのだ。
「Clean、Honest、Beautiful」。
これはもちろん、
政治家にも当てはまる姿勢であろう。