田原総一朗です。
先日、母校早稲田大学
マスコミ研究会の取材を受けた。
孫のような世代である、
後輩たちと話をするのは
とても楽しかった。
子供時代から今に至るまでの、
体験や失敗をじっくりと語った。
戦争が終わり、
先生たちの言うことが
180度変わったこと。
作家を目指したが、
早稲田在学中に
石原慎太郎の『太陽の季節』、
大江健三郎の『飼育』を読み、
「かなわない」と衝撃を受け、
挫折したこと……。
先輩に「文才がある人間が
頑張るのが努力であり、
文才のない人間が
ただ頑張るのは徒労だ」
と言われた。
その言葉は今でも
強烈に覚えている。
ショックだった。
それでは、どうしたらいいか。
新たに浮かんだのは、
想像力と文才がなくても目指せる、
ジャーナリストだった。
ただし、それは単なる
成り行きではなく、
子供時代の体験が
根っこにあったと思う。
戦争が終わった後、
豹変した大人たちへの、
社会への不信が
僕をジャーナリズムに
駆り立てたことは間違いない。
インタビューで、
「我々のような学生メディアが
果たせる役割とは何でしょうか」
という質問を受けた。
僕は「商業誌が怖くて
言えないことに
ちゃんと踏み込む。
『タブーに切り込む』
ことが大事だと思う」と答えた。
しがらみがなく、
エネルギーあふれる
若い世代だからこそ、
恐れずに切り込んでほしい。
社会に挑戦してほしいのだ。
しかし、どうも若い人たちは
今の傾向として、
安定を求めすぎるように思う。
僕は若い世代に言いたい。
「安定なんてインチキなんだ」と。
本当の安定などと
いうものはありえない。
確かだと思われていたものが
もろく壊れていく様を、
僕はたくさん見てきた。
戦時中「これは日本の聖戦だ」と
言っていた教師が、
敗戦後、「日本は間違った」と言った。
70〜80年代、
日本の経済は
世界一と言われていたが、
一気にダメになったまま、
立ち直れていない。
「安定」した就職先と
人気だった大手企業が、
あっという間に
ダメになり倒産した。
安定を求めるよりも冒険しよう。
恐れずどんどん
タブーに切り込もう。
そして、この国をもっと
良くしていってほしい。
僕は若い人たちに、
そういうことを期待している。
「それは田原さんが
成功したから言えることだ」
と反論されるかもしれない。
そんな方には、
「田原総一朗劇場
不器用物語」と題した映像を、
ぜひ観ていただきたい。
特に若い人たちに、
見ていただければうれしい。
僕の若い頃は、
失敗や挫折の連続だった。
周りに呆れられるくらい、
ほんとうに不器用だった。
才能に恵まれていたわけでもない。
見てもらえれば、きっと、
「こんなダメなやつでも、
諦めずに食いつけば、
何とかなるんだ」と
思ってもらえるのでは
ないだろうか。
今春、また多くの若者たちが、
入学や卒業、
そして就職をする。
彼ら、彼女たちに、
僕は何度でも言おう。
「安定を捨てよ、冒険しよう」。
日本を良くするために――。
◆早稲田マスコミ研究会
「ジャーナリスト田原総一朗~追い求める久遠の理想~」
https://waseda-massken.com/journalist-tahara/
◆田原総一朗劇場「不器用物語」