田原総一朗です。
僕の新刊『最後の世代』が
発売になった。
半世紀以上も、
ジャーナリストをしているが、
新しい本を世に出すことができるのは、
何冊目であろうともうれしい。
この本には、
僕よりずっと若い世代の、
「へえ!おもしろい」と
思う方たちに登場いただいている。
僕は、ゲストたちに、
さまざまな問い掛けをした。
そして皆さんも僕に、
たくさんのことを問うてくれた。
ものすごく幸せな時間だった。
僕は自分の才能に自信がない。
だから、人に問うしかないと考えている。
インタビューでも、
テレビの討論でも、
わからなかったら、
率直に聞く。
多くの政治家や専門家は、
専門用語や、
難しい言い方をして、
自分のペースに持ち込もうとする。
対して、多くの取材側の人たちは、
「自分は頭がよい」と思っていて、
恥をかきたくない人が多い。
だから、理解できなくても、
知ったかぶりをしたり、
あるいはわかったつもりで、
問い返さずに、
取材を終えてしまうことが
多いように思う。
それじゃあ、
真実は見えてこない。
どんな問いでも、
問えば相手は考える。
そして周囲の人、
視聴者や、読者も考える。
一人一人が考えれば、
社会が変わっていくのだ。
ジャーナリストの堀潤さんには、
「ソリューションジャーナリズム」について、
徹底的に聞いた。
「『問題点を指摘する』だけではなく、
『解決のために何をすべきか』まで
提示するアプローチ」だという。
具体的な例も挙げてくれ、
「今の時代では、
単に批判するだけでは
世の中は良くなりません」
と堀さんは語った。
僕は深く納得し、
またうれしい気持ちになった。
なぜなら、
僕もまったく同じ思いで、
ジャーナリストとしての
仕事をしていたからである。
僕はかつて、
3人の首相を失脚に追い込んだ。
しかし内閣が変わったからと言って、
政治がよくなるわけではなかった。
そして、「権力を批判するだけでは
日本はよくならないのではないか」
と気づいたのだ。
文芸評論家の三宅香帆さんとは、
ぽんぽんと問いを
投げかけ合い、
とても楽しかった。
三宅さんが著書で書かれた、
「全身全霊で働くことをやめよう」
「半身でいい」
という提言は納得できる
部分もあるけれど、
疑問が残った。
だから僕は、
その疑問をぶつけた。
「『おもしろいかどうか』という点では、
『半身』で何かをやるというのは
つまらなくないでしょうか」。
すると三宅さんはこう答えた。
「『一生懸命に半身をやる』
というのはどうでしょうか」。
仕事、家事、趣味……。
その時間は
目の前のことに集中する。
「一生懸命」と「半身」は、
相反するものではないのだ。
そして、意外なことを言って来た。
「田原さんも、テレビに出演し、
新聞に論評を書いて、
本を出版し……(略)
多くの場所で活動されています。
それはつまるところ、
『半身』と言っても
いいのではないでしょうか」
なるほど!
三宅さんに指摘されて、
初めて気づいた。
そうか、僕は、
「戦後世代の元祖『半身』」
だったのだ。
こんなにも、
人との会話はおもしろい。
発見がある。
そして「問い」が広がることで、
社会は動いていく、
と改めて確信を持った。
だから僕は、
「老害」「引退勧告」など
叩かれても、
問い続けることをやめない。
この本を読んだ人から、
ぜひ『問い』の灯火を、
広げていっていただきたい。