田原総一朗です。
あけましておめでとうございます。
新年、Youtubeの番組で、
「昭和100年対談」と題し、
養老孟司さんと
さまざまな問題を話し合った。
僕は長年養老さんに
強い関心を持っていた。
それは、
養老さんが知識豊富な
教養人だという理由だけではない。
学生運動が全盛期だった時代、
東大医学部助手だった養老さんは、
ゲバ棒を持った学生から、
「研究なんかしてる場合か」と、
研究室を追い出されたという。
こうしたすさまじい体験から、
「私の中で紛争は終わっていない」と、
書かれた文章を読み、
記憶に残っていたからだ。
養老さんは87歳、
僕より3歳下。
同時代を生きた養老さんと、
わかり合える部分が
多いだろうと思っていた。
養老さんもまた、
「同世代の人間と話したい」
と考えていたそうだ。
そこで、昨年共著『老人の知恵』を出版、
今回もまた対談が実現したのだ。
「嫌なことについては考えない。
日本人のこのクセは
治らないでしょうね」
養老さんは柔らかい口調で、
厳しいことをさらりと言う。
たとえば、年金問題が、
ここまで深刻になったのも
このクセのせいだと語る。
たしかに、
働く世代が年金受給世代を支える
現行制度は、人口増加を前提としており、
人口減少の時代において
破綻するのは、
目に見えていたことである。
しかし、誰もその問題に向き合い、
議論しようとしてこなかった。
もっと早く手を打つべきだったのは
明らかである。
そして今、日本人が逃げている
「嫌なこと」の筆頭は、
近い将来必ず起きる
南海トラフ地震だという。
いろんな場で、
「地震の話をすると
『また脅かして』と黙らされる」
のだと養老さんは言う。
大地震が起きれば、
当然食糧不足が大問題になる。
スーパーやコンビニに
食糧があふれる日常は、
脆く崩れ去るだろう。
今、日本の食糧自給率は約4割。
地震に限らず、
気候変動や世界各地の紛争……。
食糧危機になる要因はいくらでもある。
これもまた向き合わなければならない
「嫌なこと」だ。
養老さんは語る。
「東京一極ではなく、
地方も含めいくつか中心となる都市があって、
その周囲に田舎がある。
それが自給自足の単位になるような
社会を作らざるをえない」
「作りたい」ではなく、
「作らざるをえない」という言葉に、
切実さを感じた。
養老さんは、
学生時代の経験などから、
「180度変わる野次馬に
首をつっこむのはいやだ。
変わらないものは虫、自然。
共産党になろうが
アメリカになろうが、
いる虫は変わらない」と考えた。
そして、昆虫と自然を愛し、
解剖学の研究をする、
自分の生き方を決めたという。
僕もまた戦時中、
そして戦後と、
学校の先生や国の政治家、
大人たちが180度変わる様を見てきた。
ただ、養老さんと違って僕は、
その変わる世の中に飛び込み、
「だったら社会、日本を変えよう」
とジャーナリストになった。
スタンスで言えば真反対かもしれない。
しかし、養老さんは言った。
「でも同じ人間だから。
反対側から山を登っているようなもの。
頂上は同じ」。
僕は、この言葉がとてもうれしかった。
養老さんと僕だけではない、
多くの人間が、
何かを目指して同じ山を登っているはずだ。
頂上からは必ず、
すばらしい景色が見えると信じたい。
2025年、
みなさん今年も
よろしくお願いいたします。
※今回ご紹介したYoutubeの番組は
こちらからご覧いただけます。
災害でしか変われぬ…日本の構造的問題とは?
【ReHacQ昭和100年対談】
虫とジャーナリズム…「好き」を貫いた2人の人生哲学
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