田原総一朗です。
『それでも私は
Though I’m His Daughter』
という映画を観た。
英語部分の和訳は、
それでも私は「彼」の娘……
「彼」とは麻原彰晃こと、
松本智津夫である。
ご存じの通り、麻原は、
オウム真理教の教祖であり、
1995年3月、
日本を震撼させた
地下鉄サリン事件をはじめ、
松本サリン事件、
坂本弁護士一家殺害事件など、
一連の事件の首謀者。
2018年に死刑が執行された。
この映画は、
その麻原の三女、
松本麗華さんの
ドキュメンタリーである。
麗華さんは、
オウム真理教内で、
アーチャリーという
ホーリーネームで呼ばれていた。
麻原から可愛がられ、
目の見えない父に
道を教えたり、
見える風景を
言葉で伝えたりもしたという。
麗華さんも、
父親のことが大好きで、
「父ありきの世界」だったという。
それゆえ、
逮捕されたときは、
大変なショックを受け、
ショックのあまり、
記憶さえも失っていく。
地下鉄サリン事件から、
今年で30年。
映画は、
「犯罪者の娘」として生きてきた
麗華さんを追う。
麗華さんが犯罪を
起こしたわけではない。
オウム真理教に
入信していたわけでも、
幹部だったわけでもない。
ただ、麻原逮捕後、
求心力の弱まった教団は
麗華さんを、
「シンボル」にしたてあげた。
メディアは、
麻原と麗華さんを
同一視するような、
教団を牛耳って
いたかのような報道をした。
映画に登場した
たかまつななさんの、
「メディアの加害性」
という言葉は重い。
そして、
その加害性はいまだに続いている。
元テレビ朝日で、
監督の長塚洋さんは、
当初この作品をテレビでと考えたが、
どの局からも断られ、
劇場映画にしたという。
麗華さんは、
学校に行けることを夢見たが、
義務教育さえ
学校側から断られる。
合格した大学も入学を拒否。
就職した会社からは、
解雇された。
しかしそんな学校、
企業を社会は非難しない。
「麻原の娘なのだから
しかたない」という空気が、
支配する。
僕はいわば、
麗華さんもまた被害者だと思う。
子供時代に、
親の宗教に取り込まれ、
学校にも行けなかった。
そして信者に、
シンボルとして利用された。
しかし世間では、
「犯罪者の娘」と見る。
麗華さんは苦しんだ。
自分の罪ではないが、
被害者の家族に会うと、
苦しかった。
「生きていて申し訳ない
という気持ちになる。
でも私が謝るのも違うし、
どうしていいか分からない」
と語る。
僕には想像を絶する、
いつ終わるともしれない苦しみだ。
死にたくもなるだろう。
実際に、何度も自分で
命を絶とうとしたという。
よくぞ生きていてくれた。
麗華さんは、
いまもまだ死にたい衝動に
襲われることがある。
そんな自分でも、
いや、そんな自分だからこそ、
人の役に立ちたいと
思ったのだろう。
大学で心理学を学び、
心理カウンセラーとして、
つらい日々を送る人たちの
役に立とうとしている。
松本麗華さんは、
生きようとしている。
人のために
何かしたいと思っている。
僕は、応援したい、と思った。
犯罪者の娘は、
犯罪者ではない。
いったい麗華さんが、
何をしたというのか。
映画のHPに寄せた、
村本大輔さんの言葉を
ここに載せたい。
「彼女がなにした?」